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木の家コラム

ある住宅の変遷 — 末永く使うために

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木造2階建ての住宅の38年間の変遷についてです。
38年前の4月、S氏は弟のW氏から提案されて、父親の土地に2世帯住宅を建てることにしました。その時、S氏夫妻は第一子が年末に生まれる予定で、W氏は独身のサラリーマンでした。
北側道路の敷地に設計された住宅は上と下がほとんど同じ間取りで、2階は外階段でのアプローチでした。平面の中央に収納が南北に配置され、東側が玄関から見通せるLDKで、西側が6畳の和室と縁側という構成です。収納を真ん中にして、周囲を一周出来るプランとしたのは、子供達がぐるぐる回って遊べることと来客の際、対応がし易いと考えたからです。

建築当初1986年の間取り

11年が経って、1階のS氏は5人家族、2階のW氏は3人家族になっていました。
1階では和室と縁側に布団を敷いて寝室としていましたが、W氏家族が海外に移住することになって、改修することになりました。
中央に位置する収納の半分強を解体して、木造の階段を設置。最高天井高が5mある2階のLDKはそのまま、1階のそれを二つに区切って、息子と姉妹の子供部屋にし、和室は夫婦の寝室としました。浴室は小さな書斎になり、縁側の両端に収納を設けて減った分を補填しましたが、一周することは出来なくなりました。

11年後1997年改修後の間取り

さらに21年が経つと、既に子供たちは独立し、妻が病気で亡くなって、S氏は一人住まいとなりました。
それから5年、マンションの更新に合わせて、息子家族が2階に引っ越してくることになりました。
2世代住宅に再改装です。1階では書斎にユニットバスを入れ、洗面所に洗濯機が復活、階段室は根太をビスで止めて構造用合板と無垢の杉板で塞ぎます。釘ではなく全てビス止めにしたのは、また階段室として使う日がくるかもしれないと考えてのことです。小さい方の子供部屋は台所になり、広い方の子供部屋はテーブルとベッドを置いてS氏の個室になりました。6畳はゲストルームとして、周回動線も復活です。

2023年の間取り
1階台所と個室(現在)
2階LDK (工事中)
1階玄関 (現在)
2階玄関 (現在)

この家の場合は、結果的に変化する家族の形に否応なく適応させてきた訳ですが、スクラップアンドビルドの時代を抜けて、限りある資源を出来るだけ有効に使わなければならない現在、新しく住宅を設計する段階で長期優良住宅など構造的、設備的な耐久性と共に、機能の変化に備えた余白を持った設計をしたいと考えています。
縁側や外階段の設置、建物の周囲をコンクリートで固めず、基礎には予めボイドで穴を開けておくなど、後から設備配管の追加が簡単に出来る工夫、1階の床下や天井裏、小屋裏の点検や配管、配線が可能な寸法の確保など、お施主さんと将来計画を考える際、同時に検討すべき項目だと考えています。

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